エレンピオスとは比べられないほど沢山の色、におい、温度。
幼い頃のほんのわずかな記憶の中にある故郷が、上から塗りつぶされていくようで怖かった。
まるで絵本の中の夢物語のようだと感じる異世界。
エレンピオスよりも、ずっと豊かで美しい世界。
けど、オレが欲しいのはそんなものじゃなくて。
ただ、父さんと母さんがいて、俺の名前を呼んで、手をつないで、抱きしめてくれる。
そんなちっぽけなものでいいんだ、本当は。

無条件に与えられる愛情、ただそれを取り戻すためにどんな事だって厭わなかった。
父さんと母さんと同じように、ただ無心の愛を与えてくれる人すら裏切った。
何度も何度も偽って、騙して、本当に殺してしまおうとすら思った。
本当に欲しかったものを与えてくれようと、手を差し伸べてくれていたのに。
馬鹿で愚かなオレはその事に気づこうともしなかった。

「アルヴィン、さみしいの?」

あるいは、気づいた上で振り払った、のに。

「僕はここにいるよ、そばにいる」

あたたかい声に、耳をふさぐ。
心地よくてずっと聞いていたいのに、ずっとそうしていたら、とけてなくなってしまいそうだ。
オレが拒絶したって、何度でも、お前はそうやって手を伸ばしてくるんだな。
もうその手を払う力すら、オレには残されていなかった。
途方にくれたように名前を呼べば、まぶしすぎるくらいの笑顔が返ってくる。

「さみしくて、息ができないくらい苦しいなら、僕が君に呼吸をあげる。心が痛くて立てないなら、僕が手を引いてあげる」

小さな子供をあやすように、頬に唇を寄せて囁く。

「僕が」

抱きしめようと伸ばされた手に、縋り付いた。

「僕が、アルヴィンを幸せにしてあげるよ」


もうきっと、この手を離せない。






手を引いて、