唐突な覚醒は痛みを伴って、ジュードは寝起きでからからに乾いた喉から素っ頓狂な悲鳴を上げることになった。
ヒリヒリとやけついて、出るはずだった言葉は死んだ。
しかし、それよりもなによりも、下顎を未だにつかんだままの、節くれだった大きな手が。

「い、たい……」

まだ重たい瞼を無理やり開ければ、息が触れるくらいの近距離で鳶色の双眸がこちらを見つめている。
こんなに近いのに、見られているのが分かるのに、なぜか視線は合わない。
覆いかぶさるようにしているせいか、影をまとった色は普段よりも冷たく見えた。

「アル、ヴィン?」

手袋どころか、たいそう拘りがあるらしいコートも、スカーフもしておらず、いつもきちんと整えられているはずの髪もあちこちに跳ねたまま。
引っ掛けただけの白いシャツは、所々ボタンが掛け違えてある。
寝起きは、悪くも良くもない。
けれど、未だに回らない頭で考えても、目の前の彼はジュードの良く知るアルヴィンとは別人のように見えた。
全体的なすがたかたちを見るよりもシャツの隙間から覗く、あちこちに散らばる大小の傷を見たほうがよっぽど判別がつくくらいだ。

顎をつかまれて、無理やり上を向かされているので呼吸がしづらい。
苦しくなって、力の入らない拳でアルヴィンの胸を叩く。
そこでようやく気づいたように、あるいは気づいたフリをして、瞳に色を灯す。

「おはよ、ジュード君」

あっけないほど、あっさりと痛みを与えていた手が離れていった。
代わりに、くすぐったいような、むずがゆいような、そんな優しい手が下顎をさわさわと行き交う。
身をよじると、ベッドのスプリングがギシギシと無遠慮な音を立てる。
せっかく綺麗にベッドメイクされていたのに、シーツには不必要なほどしわが寄ってしまった。

「お、はよ…っ、な、に?」

「痛かったか、ごめんな」

ちっともそんな風に思ってないくせに、とジュードは声を出さずに視線で訴えたが、アルヴィンは素知らぬ顔で笑うばかりだ。
顎の辺りを撫でていた指が、そっと唇を撫ぜた。

「ちょっと確認、しただけだ」

「だから、何を…」

人をくったような、そんな態度は今に始まったことではないけれど。
何かあるたびに曖昧にごまかすのは、大概にしてほしいものだ。
口を塞ぐのに口を使うだとか、そんな気障を通り越して寒々しい真似は、特に。

「っ馬鹿…、ふ…っ、ぁ、…」

唾液を移すように、わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら舌が口腔内を這い回る。
軽いリップ音を幾度か鳴らしては、責めるように舐る。
その間も、触れるか触れないかの微妙なタッチでジュードの頬から顎にかけてを指で触れる。
アルヴィンは、何も言わない。

ちくり、ちくりと刺すような痛み。
溺れる様なキスの合間に、妙な違和感を感じてジュードは恐る恐る目を開いた。

(あ、)

熱に浮かされたようにあつい、涙が滲むほど。
ぼんやりとした視界の中で、彼は笑っていた。
いつもと、ほんの少しだけ違う顔で

かわいいな、と。
そんな様な言葉を、アルヴィンの唇が紡いだ。

「るっ、さい…!」

曲がりなりにも男なのに、そう言われて嬉しかったなんて、絶対に知られたくない。
逃げられない、のは分かっていたからせめてもの抵抗をする。

「髭、痛い。ちくちくする。やだ」

「キスが?」

「ひゃっ、っ、ぁ…髭が、やだって言って」

ぺろり、ぬるい体温が触れ合ってあつくなる。

「じゃぁ、キスは?」

追い詰める、狩人の目。
真正面から見つめられて、身がすくむ。
瞬きの間に、唇が震えた。


「嫌じゃ、ない…」


言葉と同時にやわらかいベッドに、深く沈んで溺れる。
それは、夢みたいに。ただただ幸せしかなくて、小さな痛みさえ、甘かった。









朝の夢
























「確認って、結局何してたのさ」


「何って、そりゃぁ。かわいいジュード君のお顔に似合わぬお髭が生えるかどうかの確認」


「…ナニソレ」


「だって、洗面台に髭剃り二つあったから」


「どうせ…まだ髭も生えないようなオコサマですよ」


「いいじゃん、コッチはささやかだけど生えてるし」

「殴るよ?」







「……殴ってから言うのはズルイだろ」




蛇足・終